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2025.04.30

学生の活動

高速原子間力顕微鏡が明かすエストロゲン受容体のDNA認識メカニズム〜がんの新たな治療標的となる転写過程の動態観察に成功〜

 ナノ精密医学・理工学卓越大学院プログラム令和6年度修了者の西出梧朗さん(研究当時:大学院新学術創成研究科ナノ生命科学専攻博士後期課程 3 年)は、九州大学大学院理学研究院の松島綾美教授、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のキイシヤン・リン特任助教、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/新学術創成研究機構のリチャード・ウォング教授、羽澤勝治准教授らとの共同研究により、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いて、エストロゲン受容体α(ERα)がDNA上のエストロゲン応答配列(ERE)を認識・結合する瞬間をリアルタイムで可視化することに成功しました。

 エストロゲン受容体αは、乳がんなどホルモン依存性がんの発症や進行に深く関与しており、これまでにDNA結合ドメイン(DBD)やリガンド結合ドメイン(LBD)といった部分的構造の解析が進められてきました。しかし、フルレングスのERαがどのようにしてDNA上のエストロゲン応答配列(ERE)を認識・結合し、転写活性化を引き起こすかについては、未解明な点が多く残されていました。本研究では、ERαがエストロゲン(リガンド)の有無にかかわらずEREに結合できること、特にリガンド存在下ではより高精度かつ安定した二量体形成を行い、DNA結合位置の特異性や持続性が著しく向上することを明らかにしました。また、ERαがDNA上を滑るように動きながらEREを探索する「動的サーチ機構」の存在も実証されました。これらの知見をもとに、本研究グループは「リガンド誘導型二量体化(Ligand-Induced Dimerization: LID)モデル」を提唱しました。これは、エストロゲンの結合がERαの構造安定化とDNA認識の精密化に寄与し、結果として転写活性の効率的な誘導につながるという新たな概念です。本研究成果は、エストロゲン依存性がんの新たな治療戦略の設計においても重要な手がかりを提供するものであり、今後の分子腫瘍学・ホルモン治療の進展に寄与することが期待されます。

 本研究成果は、2025 年 4 月18日(協定世界時)に米国化学会の学術雑誌『ACS Nano』のオンライン版に掲載されました。

【西出さんのコメント】

 このたび、本研究成果を学術論文として発表できましたこと、大変嬉しく思います。本研究を進めるにあたり、多大なるご支援とご指導を賜りましたWong先生をはじめ、リン先生、そして共同研究者の松島先生に心より感謝申し上げます。本成果は、先生方の専門的なご知見と熱心なご指導、そして実り多いご議論があってこそ実現したものであり、心より感謝申し上げます。また、研究費や奨励金のご支援、さらには他分野で活躍する同期と切磋琢磨する貴重な機会を提供してくださった卓越大学院プログラムの皆様にも、この場をお借りして深く御礼申し上げます。

 本研究成果は、エストロゲン受容体ERαがエストロゲン非存在下でもDNAに結合し、エストロゲン存在下ではより安定かつ正確に結合することを明らかにしました。これにより、エストロゲンが誘導する「リガンド誘導型二量体化(LID)モデル」を提唱しました。今後、本成果はホルモン受容体を標準とした創薬やがん治療法の開発に向けた新たな知見として期待されます。

今後は企業の立場から、これまでの研究で培ってきた知見を活かし、基礎研究から社会実装に至るまで一貫して研究に取り組んでいきたいと考えています。

金沢大学Webサイト ニュース掲載

中央が西出さん

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