2024.10.30
学生の活動
ナイアシン(ニコチンアミド)代謝物を迅速に検出できる超分子バイオセンサー(P6AS)を開発
ナノ精密医学・理工学卓越大学院プログラム履修者の杉山雄紀さん(大学院医薬保健学総合研究科医学専攻4年),がん進展制御研究所の上野将也助教,平尾敦教授,ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のリ・ホウ特任助教(研究当時,現・北海道大学大学院工学研究院助教),京都大学大学院工学研究科/金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の生越友樹教授らの研究グループで,ナイアシン(ニコチンアミド)代謝物を迅速に検出できる超分子バイオセンサー(P6AS)を開発しました。
ナイアシンは,水溶性ビタミンの一つで,ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)の前駆体です。このNAD+は生体内のエネルギー・糖・脂質・タンパク質などさまざまな代謝に関わっており,極めて重要なビタミンです。ナイアシンは,肝臓でNNMT(nicotinamide N-methyltransferase:ニコチンアミド N-メチル基転移酵素)によりメチル化されて,1-メチルニコチンアミド(1-MNA)に代謝され,尿中に排出されます。この1-MNAの尿中排出は,肝硬変患者で亢進していることが知られており,1-MNAの測定は肝硬変の診断に応用できることが期待されています。また,がん細胞でもNNMT の発現が亢進していることから,1-MNAが,がんのバイオマーカーになることが示唆されています。
今回,本研究グループは従来のセンサーを化学的に改変して高感度化に成功し,1-MNA を迅速に検出できる超分子バイオセンサー(P6AS)を開発しました。P6ASを用いることで,これまで困難だった未精製の生体サンプル中の1-MNA を,質量分析計(MS)を使わずに,簡便かつ迅速に測定することに成功しました。 この研究成果では,迅速な肝機能診断法の確立や,がん細胞の術中診断や可視化技術への応用へとつながることが期待できます。
本研究成果は,2024年8月25日(米国時間)に米国科学誌『Analytical Chemistry』に掲載されました。
【杉山さんのコメント】
本研究は,様々なバックグラウンドや研究分野の異なる研究者が在籍する,ナノ生命科学研究所とがん進展制御研究所との共同研究です。ナノ精密医学・理工学卓越大学院プログラムの育成人材像である「医学に強いナノ精密理工学プロフェッショナル」としての研究成果を,論文という形で公表できたことを嬉しく思っています。
研究は,初めから良いデータが出るわけではありませんでした。ネガティブデータしか出ないことが2年以上続き,周りの人の進捗と比較して焦りを感じる日々でしたが,その中でもサポートし続けてくださった平尾教授,上野助教,並びに平尾研究室のメンバーにこの場を借りて感謝を申し上げます。